事故が与えてくれたもの

病院の待合室。ソファーに座ろうと横切ったら、後ろ歩きでソファーに戻ろうとしていたおばあちゃんの足が私の足の上に乗ってしまった。

 「ごめんなさい。痛かったでしょ、ごめんねぇ」
足をさすってくれながら謝ってくれた。ほんとコツンと乗ってしまった程度。
小さなおばあちゃんの体重は全くかかっていなかったので、痛くなどなかった。
むしろ、あまりにやさしいおばあちゃんの雰囲気と言葉に気持ちがゆるゆるした。


治療が終わって、待合室に戻ったら、「さっきはほんとごめんねぇ」と、声がした。
見ると横にいたのはさっきのにこやかな笑顔のおばあちゃんだった。
再び謝った後に、孫が今マラソン大会をしていること。
そのゴールを家族が見に行っている為だろう、お迎えをもう少し待ってと言われていることを話してくれた。


ちいさな病院で家族のようにのびのび対応の看護師さん。
女性の優しさそのままの柔らかいおばあちゃん。
こんな癒しの雰囲気な人と触れあう機会を与えてもらったんだなと、今思う。
小さな追突は、その為のちょっとした休憩。

いつの間にか効率優先になっていた自分。ガチガチで、ゆったり構えることがなくなっていた自分。
その厚い鎧がとれた今だから、おばあちゃんの対応があんなに沁みたのだと思う。
だから、大丈夫。なりたい自分に向ってもう進んでる。